未達歌の本棚

TRPGシナリオや創作小説

賽は投げられた


は投げられた

 

◆KP向けあらすじ
探索者たちはトゥルースチャを信仰する狂信者によって異世界に集められ、死と腐敗の生贄として儀式に参加させられます。NPCの如月詩祈(きさらぎ-しの)は10年前の犠牲者でしたが、狂信者であるボゴール(魔術師)が身体を乗っ取ったことで、精神はアザトースの宮殿にあります。なので、如月(偽)は始めの自己紹介で自分の名前の読みを間違え、「しき」と名乗るのです。如月の姿をした魔術師はあなた方をゾンビと争わせたり、ゾンビにしてしまうことで、死と腐敗、恐怖を高め、そしてトゥルースチャを喜ばせるための祭祀を執り行います。
10年前、如月の身を守れなかった婚約者・峠式(とうげ-しき)は10年ごとにこの儀式が行われることを知り、また十年後に連れてこられるであろう探索者たちのため、魔術を覚えています。すでに彼は死んでしまいますが、それはゾンビとして肉体が滅び、精神はこの場にずっととどまっているままです。彼だけが棺桶に閉じ込められるSAN抵抗ロールに耐え続け、魂だけは滅ぶことなくとどまり続けています。
本来ならば、習得に48週間、儀式に4日間かかるアンサタ十字架も彼が事前に製作してくれたおかげで最小のコストで探索者たちは使うことができます。
如月の身体は乗っ取られている状態なので、最終的には殺さず、中の魔術師をトゥルースチャのもとへ返すのを目標にしましょう。

 

 


◆導入
世間は冬至を迎えたばかり、聖夜を今晩に控えたそんな頃です。探索者の皆さんも、それぞれの予定を週末に詰めつつ、今日という世界的記念日を思い思いに過ごすのでした。
さて、皆さんは仕事終わりか私用帰り、道端でいちゃつくカップルに中指を立てながら帰路についています。四季のなかで最も太陽の出番がない季節ですから、夕方6時を過ぎれば独り身には厳しい寒さが体を刺すようです。リア充のせいで荒んだ心を癒してくれるものはないか。あなた方はそんな風に街を見渡しました。
しかし、見れば見るほど街にあふれるのはリア充リア充リア充。どこを見渡してもブスと豚が鳴き声を上げながら街を行きかいます。耳に入るのは凡そ同じ人間だとは思いたくもないチンパンジーどもの鳴き声とそれに似つかわぬ讃美歌です。街路樹や電灯、街の広場に鎮座する色鮮やかなモミの木。通称:リア充集めの木、別名をクリスマスツリー。待ち合わせやらインスタ映えを狙ったカップルがそこにはうじゃうじゃいました。あまりに醜悪なその光景にSAN値チェックです。(※ここは大変グロテスクで背徳的な描写なのでしっかりとSANチェックしてあげましょう)
あたりを見渡していたあなた方は、お互いの気配を察知することができたでしょう。この地獄のような場所に自分と同じ、この季節になると顕著に現れる絶滅危惧種、ボッチ仲間です。あなた方はお互いにシンパシーを感じた後、プギプギとうるさい豚の声に諦めの境地になり、ふと、ツリーの頂上へ飾られた星を見つめました。キリストが生まれる際にその道導となった明星、ダビデの星
高い木の上に掲げられているからだろうか。その星の輝きは汚れることなく黄金色にあなたたちを照らしてくれます。光はまるで自ら発しているかのように輝きを増していき、やがて、あなた方はその光に目を開けることも許されず、視界とともに意識をホワイトアウトさせるのでした。

 

◇開幕
次に探索者たちが目を覚ますと、見慣れない天井が目に入ります。起き上がり、あたりを見渡してみてもそこは見覚えのない場所です。まるで林間学校のような簡易2段ベッド、サイドテーブル以外何もない軍の宿舎のように質素な部屋です。(ここで探索者たちに幸運ダイスを振ってもらい、成功したら直前までの記憶がある。失敗したらここしばらくの記憶がないことにします)
どうやら、あなた方はベッドにただ横になっていたようで、特になんの縛りもなく起き上がることができます。しかし、どうやってここへ来たのか、ここがどこなのかはさっぱりわかりません。覚えているのは豚どもの鳴き声だけです。起き上がり、周囲を見渡すついでにわかりますが、その場には(探索者PL+NPC)人の人がいるのがわかります。


※知らない場所、知らない人に囲まれたあなた方は突如起きた不可解な状況にSAN値チェックです。(0/1D2)


○人物と話す。
NPC 如月詩祈(25) とても美しい人です。おどおどとしていて少し不安げな表情をしています。また自己紹介を頼むとこう答えます。(シークレットダイスを振る→ブラフ)
「私は如月しき。私も気づいたらここにいたの、覚えていることはほとんどないわ」
心理学を振られた場合、成功で→不安に感じながらも何か隠してるな、という風に感じます。失敗で→正直に言っているなというふうに感じました。


○周囲もしくはベッドに目星
成功→ベッドは5個ならんでおり、普段この二段ベッドの上階は荷物置きとして使われていたようで、布団のセットになっているのは下段のみです。みなさんも、下段に寝かされていました。梯子をのぼり、上段を見てみると、いくつか荷物がありますが、皆さんのものではありません。それはずいぶん古いランプとトランシーバー、そしてこれもまた古いタイプのリボルバーが入っていました。このセットは皆さんのベッドに同じように置かれています。
(探索者のうちだれか一人)○○はそこであるものに気が付きます。自分の荷物にだけ、手記が入っていることに気が付きます。
その手記はとても古く、革製のカバーですが、紙はボロボロで黄ばんでおり、それに記された文字は筆記体で、万年筆、もしくはつけペンで書かれたかのようなインクの掠れ方をしています。(読む場合、英語技能で15分。スペシャルで5分)


○手記を読む(英語技能)
手記を開いてみると、ずいぶん前のものであろうことが見て取れます。そのボロボロのページの中で、最後のほうだけあなたはかろうじて読むことができました。
その日付は100年以上も前のものです。


1900/12/21 強い風が吹いている。空の様子がおかしい。
1900/12/22 外が恐ろしいほど暗くなってきた。明け方が来ない夜のようで恐ろしい。デイビッドが泣いている。
1900/12/23 風はまだやまない。これは嵐だ。もうずっと暗いまま。デイビッドは静かになった。
1900/12/24 アレクサンドルが祈り始めた。デイビッドは灯台の管制室にも来なくなった。
1900/12/25 嵐がやんだ。外はすっかり光に包まれた。やはり神はいらっしゃるのだ。


そこで手記は終わっています。手記の裏表紙には名前が書いてあり、この手記の持ち主が「アラン・マッカーサー」だということがわかります。


○廊下に出る。
探索者たちが寝室を出ると、廊下は左右に伸びており、それぞれすぐ曲がり角になっています。廊下は木製で、窓がありますが、外は漆黒そのもので、何も見出すことができません。(KP情報:部屋を出て右にいけば廊下が続き、曲がってすぐの右手に食堂の扉、突き当たり右手に観測室の扉、真正面に灯台に行くための扉。左にいけば地下室への階段が見えます)


○食堂へ行く。
扉を開くと、長テーブルが二つ。その間に均等に木製の椅子が置いてあります。部屋の奥は厨房になっており、そこで調理をしていたであろうことが見て取れます。広い壁にはこの場所が描かれたであろう地図が引き伸ばされて張られていました。(地図提示)

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※この時、地図は英語で書かれています。詳細情報を知るには英語技能が必要です。
地図を見たことによって、今探索者たちがいる場所が無人島の灯台にいることがわかります。


〇部屋全体に目星
成功で時間省略。失敗で10分。
部屋を詳しく見ていくと、厨房と席との間に設置されたカウンターに新聞が置かれているのがわかりました。それは英語で書かれた新聞です。英語ダイスを振ってもらいます。
英語成功で速読、失敗で10分です。※どの探索者にも英語技能がない場合、知識-20で読むことができますが、20分かかります。
新聞はとても古いものでこう書かれています。


1901/1/3 スコットランドのアイリーン・モア島で灯台守3人が失踪。貨物船アーチャー号が信号を送ったがそれに対する返答がなく、小型船で島に上陸した時には既に三人の姿はなかった。警察と海兵隊が詳しく捜査したが、部屋は整えられており、灯台の灯油も補充されたばかりで、何の異変もなかった。当初、警察は三人が誤って海に転落したと考えたが、捜査に関わっていた海兵隊のマイク氏は堤防に安全装置が設置されていたことから、転落死の線は極めて低いと判断しており、灯台守の一人だったデイビッドはマイク氏と同じ元海兵隊で海に詳しく、勇敢な男性であったことから、世間もこの事件を不信がっている。三人の行方も意図も分からないまま、捜査は難航しているといえるだろう。


※ここで、手記を読んだ面々は、こう思います。「この手記はあの行方不明になった灯台守三人のうち一人のもので、彼らの身に何かが起こったのではないか。彼らが消失する直前までの手記なのではないか」と彼らの身に起こった何かを想像してしまうでしょう。未知なる恐怖を感じてしまったあなたがたはSAN値チェックです。(1/1D3)
食堂に居たあなた方ですが、突然、壁に掛けられていた黒電話が鳴り響きます。


〇黒電話を取る。
黒電話を取ると向こうで男性の声が響きます。「もう遅い。あれが始まってしまった。逃げることはできない。また、繰り返される」そういうと電話は切れます。
何だったのか、探索者が疑問に思っていても電話はもう機能しません。よく見れば黒電話は配線が切られていました。絶対に繋がることのない黒電話が鳴ったことに探索者たちは底知れぬ恐怖を覚えることでしょう。SAN値チェックです。(1/1D4)


〇観測室へ行く
廊下を進んで奥の右手にある扉を開くと、そこは大きなモニターや記録器具が所狭しと並べられた観測室です。海図や観測機、その他いろいろなものが置いてありますが、その機械類はすべて電源が通っていないのか、動きません。(目星した場合※機械修理で一台だけ復元し、過去の観測記録だけを入手できそうだということを伝えましょう)
※もし、「叩けば直るだろ!」というバカがいましたら、幸運を振ってもらい、失敗すれば完全に破壊していいでしょう。


観測機が復旧すると、1900/12/23の天候が記録されています。記録によるとその日の天気は一か月を通して比較的穏やかな天気が続いており、海のシケも雨すらもなかったとされています。(手記を読んだ探索者ならば、手記の内容と実際の観測情報とで矛盾がおきていることに気が付くでしょう)
観測室に居たあなた方ですが、突然、壁に掛けられていた黒電話が鳴り響きます。


〇黒電話を取る。
黒電話を取ると向こうで男性の声が響きます。「ここを訪れる人々はすべて贄だ。死と腐敗を賛美する邪悪な者たちの宴に差し出される。地下室へ行け。僕はすべてを知っている」そういうと電話は切れます。


灯台へつながる渡り廊下の扉
突き当りの扉を開きますと、そこは隣接する灯台への渡り廊下になっています。あたりは真っ暗な闇が包み込んでいますが、あなた方の肌を潮風がなでる感触、さざ波の音、潮の匂いがします。それらの情報からあなた方は外に出ていることがわかりました。しかし、人の身長ほど高く作られた転落防止の壁により、外への脱出を試みることができません。(もし上って外を覗き込んだ場合、真っ暗であるという情報の他に、下は底なし沼のように深い何かがあるのではないか、と意識させつつ、何かのうめき声を聞きます。※SANチェック(1/1D3))
そのまま進むと灯台に入ることができます。


○地下室への階段を下りる。
地下へ続いているだろう階段は暗く、先がよく見えません。
目星・聞き耳をした場合→成功でなんの物音もしませんが、何かの気配を感じ取ります。
あなた方がゆっくりと降りていくと、そこは石造りの地下室になっており、幅の狭い廊下を少し歩くと、右手に広がるスペースがあります。そこには松明が壁に設置されており、明かりが灯っていることがわかるでしょう。


○看守室を見る。
その広がりを持ったスペースは寝室や食堂と比べてあまり十分な広さをもっているとは言えませんが、何か作業する場所ではあったようです。すぐ右手に両開き扉があり、奥に部屋があることが予測できます。
※目星を成功することで探索時間を省略、失敗した場合は探索に10分かかります。
スペースにはクラフト台のようなものもあり、そこに広げられた本があります。また机の上にはいくつか薬品がおいてあり、粉上のものを合成していたことが見て取れるでしょう。


○本を見る
ラテン語技能で理解。(KP情報:本はラテン語で書かれています。この本を読む場合は英語ではないことを伝え、もし誰もラテン語技能を持っていなかった場合は英語技能成功で30分かけて解読できます。またそれで失敗しても、1時間をかければ要領を得ることはできるでしょう)
本にはこのようなことが書かれていました。


ブードゥー教では殺人罪などを犯した死刑囚を使い、ゾンビを作る魔術に精通していた。教団に属する魔術師は毒やその他の混合物を作り、人間を仮死状態を継続することで脳死にすることに成功している。また精神を崩壊させることで、肉体の一時的な死と、魂の消失を促している。毒の投与と解毒剤投与の継続により、ゾンビを生み出すことに成功したのだ。


その本は魔術に関する資料であり、その内容は非道で醜悪です。魔術という得体のしれないものへの接近、内容への嫌悪にこれを理解してしまったあなた方はSANチェックです。(1/1d4)


○薬品・粉を見る。
様々な種類の薬品がおいてありますが、すべてラテン語表記です。また、名前の書いていないものもあるためすべてを判断できません。
薬学技能の成功で、それらの1つがフグなどに含まれる毒・テトロドトキシンであることがわかります。
もし、粉上のものを嗅いだor体内に含んだ場合、猛毒の摂取として即時に効果が表れCON抵抗ロールが入ります。(POT17)効果としてはひどい眩暈と激しい吐き気、痙攣、激しい動悸などです。
成功した場合、持ちこたえます。失敗した場合は30分間気絶状態になります。


○解毒剤などを探した場合
解毒剤はこの場にはありません。レシピをしらないので調合も不可能だということを伝えましょう。


○安置所に入る。(目星聞き耳しても得られる情報はありません)
両開きの重たい扉を開くと、そこは寝室や食堂よりも広い大きな部屋でした。地下で石造りであるためか、室内は非常にひんやりとした空気をしています。あなた方がこの部屋に入って最初に見るものはやはり、大量に並べられた棺でしょう。
壁に均等に掘られた空洞にそれぞれ棺が収まっており、さらに、地面に10個の棺がおかれています。これらの状況をみて、あなた方はここが死体安置所、もしくは地下墓地であることを理解するでしょう。
棺はきれいに並べられていますが、一番奥の棺の蓋が開いていることに気が付きます。近寄らなければ中は見えそうにありません。


○一番奥の棺を見る
一番奥の棺を見てみると、その中には美しい青年がまるで眠っているかのようにおさまっています。歳は25歳程度でしょうか。身にまとっている服はあなた方のつけているものとよく似ていて、同じ時代感を感じ取れます。
※医学などの技能を振ると、この青年が死後数年たっていることがわかります。(技能を振らなくてもこの青年が死んでいることは理解できます)
また、青年は胸に大事そうに分厚い本を抱いていました。その表紙にかかれた文字は先ほどクラフト台で開かれていた文献と同じ文字です。


○本を取ろうとする。
本を取ろうと手を伸ばし、本に触れます。その時、青年の手が貴方の手をとらえました。その手は冷たく、強くあなたの手をつかんで離しません。困惑するあなたに向かって青年は目を開き、そして何か言葉を紡ぎました。


「もう始まってしまう。もう始まってしまう。また儀式が行われてしまう。アンサタ十字を持っていけ。僕の十字架を持っていきなさい。アレの中身は偽物だ、聖なる十字架で化け物を追い払うことができる。--あの子を返してくれ」


そういうと青年の手からは力が抜け、また胸の上に手を戻しました。(本は取ることができます)彼は静かに目を閉じ、また永久の眠りにつきます。その頬には冷たい涙が流れていました。
完全に死んだ人間が動き、話したという異質な状況をみてしまったあなた方はSANチェックです。(1/1D6+1)
また、手をつかんだ勢いで発見することができます。彼の胸には金色の十字架が飾られていました。
さらに、手をつかまれた探索者の手首に赤い焼き印のようにマークが浮かび上がっていることに気が付きます。特に痛みもなく、なんの症状もありません。(KP情報・これはヴールの印という魔術印で、術の使用時に1MP+1SAN補正できるものです)


○魔術書を読む
ラテン語で書かれたこの本は魔術書であることが読んでいくうちにわかります。これをすべて読み、理解するのに1D6/2D6のSAN消費+クトゥルフ神話技能12%+48週間かかります。
しかし、アンサタ十字について絞って知りたい場合は、1D3/1D6のSAN減少で読むことができます。※十字は青年が儀式を行い作成してくれたので、魔術書を読まずにかざすだけで使うことができます。


○安置所から出る
あなた方が安置所から出ようとすると、背後で物音がします。それは重たい棺の蓋が滑り落ちる音です。
ここで探索者たちは選ぶことができます。
振り返らず素早く部屋を出た場合は後ろを確認しなかったのでSANチェックがありません。
ここで振り返った探索者は先ほどまで微動だにしなかった棺からほとんど腐敗が始まってしまった死体が起き上がる様子を目撃します。合計3体が動き出しています。SANチェックです。(1/1D5)


○逃げる
素早く部屋から出る場合、ゾンビは追いついてきません。すぐに部屋から逃げることができるでしょう。逃げたとき、寝室、食堂、観測室の扉は開かなくなっています。


○戦闘する。
KP情報:ゾンビと対峙し戦闘する場合、NPC如月は戦闘に参加せず、部屋の隅にいます。周りにはおびえているように見えますが、その実、ゾンビを操っているのは彼女です。


ゾンビのステータス
STR7CON7DEX4SIZ14 組み付き35 こぶし35 HP5


灯台の管制室に行く。
渡り廊下を進み、灯台に入ると中は管制室になっています。観測室と同じように機材がたくさん並べられている部屋です。
目星成功で探索時間省略、失敗で10分かかります。
部屋の中を詳しく見てみると、機材のそばに写真が一枚落ちていました。


○写真を見る
写真を見ようと手に取った瞬間、そばにあった音声レコーダーの電源がつき、録音されていた音声が流れます。
その声はノイズが混ざり、ところどころ聞き取りずらいですが、先ほどの男性・峠式の声であることがわかります。
「知らない場所へ来てしまった。ここはなんて地獄なんだ。もう息をしているのも僕とシノの二人だけ。シノの心ももう耐えられそうにない。それは僕も同じことだ。--もし、この場所をまた誰かが訪れたなら、その時のために、僕の命をささげておこうと思う。シノのためにも、僕のためにも。僕はこの地獄を作った魔術師に対抗するために一年をかけて魔術を習得しておく。また次の儀式のときまでに間に合うよう、儀式を備えておく。もし誰かが訪れ、また犠牲になろうとしているのなら、その時こそあの化け物を遠くへ追い払えるように十字架を用意しておこう。魔術師は天に近い場所で儀式を行うはずだ。儀式が始まれば空は緑色の光に包まれる。もしその光が柱になり、地上にたどり着いてしまったならば、その時はすべての終わりを覚悟したほうがいい。僕たちはあの光にささげられるための死と腐敗になるのだという。--僕はもう助からない。きっと地下にいたあいつらのように動く死体にされてしまう。だからせめて、せめてシノ、君だけは――」
言葉はそこでおわり、あとは男性の静かな鳴き声だけが細々と記録され、やがてレコーダーが止まります。
写真を見ると、そこには男女が二人笑顔で映っています。男性のほうは先ほど安置所で見た青年です。女性のほうは今よりも若い姿の如月であることがわかります。二人の薬指にはシルバーに輝く指輪が嵌っており、とても幸せそうです。
写真の裏を見ると、10年前の日付と、「峠式(とうげ‐しき)と如月詩祈(きさらぎ‐しの)の婚約記念日」と書いてあることがわかります。
写真を見つけたとき、後ろからついてきていたはずの如月がいないことに気が付きます。階段を走り上る音が響いていることから彼女はどうやら灯台の最上階へ向かったようです。


○如月を追いかける
どうやら灯台は最上階まで階段だけになっているようです。如月を追いかけて階段を駆け上り、あなた方はやがて最上階にたどり着くことができます。
最上階はガラス張りになっており、海や空が見渡せるように設計されていたのでしょう。本来なら島や海が見えたはずの外の世界はまだ真っ暗ですが、空の様子だけがおかしいことに気が付きます。
空には緑の光が表れ始め、まるで円を描くかのように不思議な空模様が出来上がっています。
その空を見ながら、部屋の中心で如月が微笑んで立っていました。どうやら手には魔術書らしき分厚い本を抱えています。
如月はあなた方を見て言います。


「あの男、この体によほど未練があったらしい。面倒な情報ばかり残していってくれたわ」
「この女はねぇ、強情なくらい面倒な性格をしていて、精神転移するまでにものすごく時間がかかったのよ。でも10年前の儀式で集めた生贄のなかでは最も若くて魅力的だった…。だから私も時間をかけてでも乗っ取ろうと思ってね。何度か失敗もしたけど、1年かけてやっとこの体を手に入れることができた。--本当ならあのこざかしい婚約者も先に死者に変えてやってもよかったのだけれど、まぁいいわ。またこうして儀式を行うことができたのだから、あのお方も喜ぶことでしょう」
「さぁ、死者と一緒に踊りなさい。ここは死と腐敗と恐怖の楽園。あのお方のための狂気の集い、私が祝詞を、生贄が死の賛美を!」


彼女が叫ぶと同時に、階段からぞろぞろと先ほど見たゾンビたちが這い上がってきます。(※ゾンビは初期合計3体いますが、3ターン事に1体増えます。※※探索者のレベルに合わせてゾンビの数を調整しましょう。作者の卓では上級者扱いをして皆死にました)


○戦闘です。
ゾンビのステータス(※DEXは3種類の中から好きな割合で決めてください)
STR7CON7DEX(4/5/6)SIZ14 組み付き35 こぶし35 HP(7/8/9)
如月(ボゴール)のステータス(※ボゴール=魔術師)
STR12 CON13 DEX10 SIZ13 APP16 回避50 HP18 MP15
※如月は10ターンかけてMP10減少コストに精神転移の魔術を発動できます。もし、10ターン以内にアサタンの十字架で中に入っている狂信者を祓えなかった場合、探索者の誰かの体に乗り移ります。さらに、精神転移後、次の行動でボゴールはトゥルースチャという外なる神を招来させます。その時点でロストエンドです。
※また、アサタンの十字架発動には3ターンの間、十字架を掲げなければならないので、その間、発動者は行動できません。さらにアサタン十字架発動に5MP+5SANのコストがかかります。もしヴールの印を持っている探索者がやると4MP+4SAN消費で発動できます。またMPは他の探索者からもらうこともできます。

 

◇EDN分岐


○如月の精神転移発動よりも先にアサタンの十字架によって追放することができた場合。
探索者が掲げた十字架が強く強く輝きを増していきます。その光は暖かく、そして穏やかなものでした。如月はその光を見てうっとおしそうにしていましたが、やがてなんの術かわかったのか、焦りはじめ、そして「やめろやめろ!」と叫び始めます。十字架の光がまばゆく広がり、全員の視界が遮られるほど、まるで灯台の光のように強く輝きました。
真っ白になった世界の中、穏やかで低い男性の声で「ありがとう」と聞こえた気がしました。
光がだんだんと落ち着いてきます。
次に探索者たちが目を開くと、目の前には大きなクリスマスツリーがあります。耳に入ってくるのは街の騒音と讃美歌、そして街を賑わわせるカップルたちの声です。
あなた方は元の世界に戻ってきたことを数分かけて理解し、やがてしっかりと安心することができるでしょう。
あなた方はツリーのそばのベンチに一人の女性が座っているのに気が付きます。その女性は如月しのでした。彼女は静かにベンチで一人きり雪の降り始めた空をみつめています。
○話しかける
如月しのに話しかけると、どうやら彼女はあなた方を覚えていないようでした。しかし、彼女が婚約指輪をつけていることがわかるでしょう。
彼女はこういいます。
「私は10年前にいなくなってしまった恋人をずっと待っているのよ。……いやね、初対面の人におかしなことを言ってしまって。--でもね、今日という日だけは、どうしても忘れられないの。あの人がまた帰ってくるんじゃないか、って。そう期待して毎年ここで待ってしまうのよ」
○写真を渡す
写真を持っていた場合、如月に写真を渡すと、驚き、そして涙を流します。
写真には先ほどまで書かれていませんでしたが、また新たに書き足された文字がありました。
「永久に君を愛する」
如月はあなた方を問い詰めるわけでもなく、ただ静かに涙を流しながら、「ありがとう、ありがとう」とひたすらにお礼を言い続けます。
「あぁ、よかった。私は待っていてよかったのね。あなたを思い続けてよかったのよね」
そう言って彼女は雪の降るにぎやかな街に帰っていくのでした。
後日、10年前に行方不明になっていたとされる日本人男性の遺体が海で発見されたというニュースを見ます。あなたたちはニュースに表記された名前を見て、あの二人がまたいつか出会うことができればいいな、と珍しくカップルにやさしくなれたのでした。
Good END

 

 

○如月の精神転移発動よりも先に如月を殺せた場合。
探索者の渾身の一撃により、如月の動きが止まります。やがて、力なく倒れ、呼吸も浅くなっていきます。
「あ、あぁ、なんてこと……。あぁでも、いいの。死というものは、あのお方のお気に召されるもの、なのだか、ら……」
如月の呼吸が完全に停止したと同時に、あなた方の視界はゆがみます。まるで視界をシャッフルされたかのような気持ち悪い浮遊感のあと、視界が真っ暗になりました。
真っ黒になった世界の中、小さくおびえた女性の声で「やっと解放される」と聞こえた気がしました。
光がだんだんと戻ってきます。
次に探索者たちが目を開くと、目の前には大きなクリスマスツリーがあります。耳に入ってくるのは街の騒音と讃美歌、そして街を賑わわせるカップルたちの声です。
あなた方は元の世界に戻ってきたことを数分かけて理解し、やがてしっかりと安心することができるでしょう。
あなた方は今までの記憶が白昼夢なのか否か、判断することはもはやできませんでした。むしろ、今までの記憶を深堀にして理解するよりも、忘れたほうがいい、と自分に言い聞かせながら自分の家に帰っていきます。
後日、新しい年を迎えたころのニュースで、10年前に行方不明になっていた男女の遺体が発見されたというニュースを見ました。
その遺体の名前を見て、あなた方はあの聖夜に見たカップルの写真を思い出すことでしょう。そして彼女のため、自分たちのために命を捨ててくれた男性と、哀れなことに自分の体を奪われてしまった女性の末路を思い出し、やはり、クリスマスやリア充というのは誰のことも幸せにしない、と再確認したところでSANチェックです。(0/1D2)
True END

 

 

○10ターンを越え、誰かの体にボゴールが乗り移り、トゥルースチャが招来してしまった場合。
ボゴールが掲げたネクロノミコン(魔術書)が強く強く輝きを増していきます。その光は緑色で、そして冷ややかなものでした。如月はその光を見てうっとりとしていましたが、やがて興奮し始めたのか、高らかに笑い始め、そして「いあ!いあ!トゥルースチャ!」と叫び始めます。魔術書の光がまばゆく広がり、全員の視界が遮られるほど、まるで灯台の光のように強く輝きました。空に広がる光の環もまるで火柱のようにこの灯台へ降りてきます。
緑の光に包まれた世界の中、あなた方は空に悪魔のような異形を見ました。それは大きく口を開くように迫り、やがてあなた方の意識は暗転するのでした。
次に探索者が目を覚ますと、病院のベッドに寝かされていました。
あぁ、あの悪夢から目が覚めたのか。とほっとしたのもつかの間。横たわる自分のそばに医者が立っていることがわかります。
医者はこういいます。
「残念ですが、脳死と判断させていただきます。……ご冥福をお祈りいたします」
自分を挟んで医者の反対には泣き崩れる家族、友人たちがいました。
貴方が何かしゃべろうとしても、体は全く動かず、瞬きをすることすら許されません。やがて自分の鼓動が聞こえないこと、自分の体温がほとんどないことに気が付き、自分の体が仮死状態を継続しているゾンビだと気づかされました。
貴方が真相に気づいたところでそれを止められる人はどこにもいません。
あなた方は意識を保ったまま、火葬場へと連れていかれ、そして生きたまま、その体を焼かれてしまうのでした。
Bad END

 


これはアソ×ビバのメンバーがプレイし、脳筋班の音声が動画化されたシナリオです。『脳筋と化した芸大生たちによるクトゥルフ』参照。
※このシナリオは未達歌のオリジナルシナリオであり、創作物です。無断転載、または無断改変による自作発言など、その他、著作に関わる虚言、誹謗中傷、侵害を禁止します。